『二十歳の原点』:高野悦子

         独りであること、未熟であること、

    これが私の二十歳の原点である

 

高野悦子の『二十歳の原点』を二十歳の頃読んだことがなかった。

年をとってから、今更のように手に取った。

日記は1969年1月2日から6月22日までで、半年もしないうちに終わってしまった。

1月2日は、彼女の二十歳の誕生日だ。

日記の中の彼女は、必死に生きている。

悩みをいっぱい抱えて。

誰もが大なり小なり抱えている青春の傷。

 

だから、もう少し生きてほしかった。

生きていくって辛いことや悲しいことだらけだけど、

時々楽しいこともある。

そんなことを思うのは、生き残ってしまった年寄りだけだろうか。 

 

二十歳の頃読んでいたなら、同じような感情を抱きながら、

七転八倒していた私は、救われたのだろうか。

彼女の方が断然高尚だから、絶望しただろうか。

今は、ただ彼女が必死に生きていたという証の

この日記が悲しい。

 

生きなければ。

一所懸命生きなければ。

 

   旅に出よう/テントとシュラフの入った/ザックをしょい

   ポケットには/一箱の煙草と笛をもち/旅に出よう

 

   出発の日は雨がよい/霧のようにやわらかい/春の雨の日がよい

   萌え出でた若芽が/しっとりとぬれながら

 

   そして富士の山にあるという/原始林の中にゆこう/ゆっくりあせることなく

   (略)

   原始林の中にあるという湖をさがそう/そしてその岸辺にたたずんで

   一本の煙草を喫おう/煙をすべて吐き出して/ザックのかたわらで静かに休

   原始林を暗やみが包みこむ頃になったら/湖に小舟をうかべよう

 

   衣服を脱ぎすて/すべらかな肌をやみにつつみ/左手に笛をもって

   湖の水面を暗やみの中に漂いながら/笛をふこう

 

   小舟の幽かなるうつろいのさざめきの中/中天より涼風を肌に流させながら

   静かに眠ろう

 

   そしてただ笛を深い湖底に沈ませよう

 

参考:『二十歳の原点』 高野悦子著 新潮社 1979

                  新潮文庫 2019

   昭和四十六年 新潮社より刊行