『ヰタ・セクスアリス』の評価:奥野健男氏の『日本文学史』から

  森鴎外の『ヰタ・セクスアリス』は、どんな評価を受けているのかな。

  というわけで、奥野健男氏の『日本文学史』を紹介する。

 

 

 

     深い西欧的教育を持ち、武士的な保守主義者であった森鴎外

    気品のない自然主義文学を苦々しい思いで傍観していましたが、

    一方彼らがひらき定着させた口語体による散文的描写の方法は、

    彼の中の小説家を烈しく誘惑します。

    誇り高い彼は自嘲と皮肉をこめて医学者的態度で仮装し、

    自然主義的手法で幼少期の性の思い出を書いた

    『ヰタ・セクスアリス』(明治四十二年)を書くことにより

    小説家として復帰します。

    『ヰタ・セクスアリス』自身は中途半端な作品ですが、

    これで自信を得た鴎外は。英文学の教養のうえに

    軽やかに新しい反自然主義的な小説を発表している学者小説家の

    夏目漱石に強い対抗意識を燃やし、『青年』(四十三年~四十四年)、

    『雁』(四十四年~大正二年)

    など現代の風俗と心理を明晰に描いた本格小説を発表します。

             「近代文学の確立」より

 

 

   ああ、そうでしたか。

   鴎外は、自然主義文学を苦々しく思っていたのか。

   彼らしいアプローチだったのですね。

   石川啄木のような描写は、鴎外にとっては品がないのだ。

   そうかあ。

   

 

 

参考:『日本文学史』 奥野健男著  中公新書212

      中央公論社 1970

   『ヰタ・セクスアリス』 森鴎外著 明治四十二年

      雑誌「スバル」に発表