寒山拾得:森鴎外

     「わたしもこれから台州へ往くものであって見れば、

      殊さらお懐かしい。序(ついで)だから伺いたいが、

      台州には逢いに往って為めになるような、

      えらい人はおられませんかな。」

     「さようでございます。国清寺に拾得(じっとく)と

      申すものがおります。実は普賢でございます。

      それから寺の西の方に、寒巌(かんがん)と云う

      石窟があって、そこに寒山と申すものがおります。

      実は文殊でございます。さようならお暇いたします。」

 

森鴎外の短編小説「寒山拾得

昔、高等学校三年の国語の教科書に載っていたらしい。

私はその頃高校三年生ではなかったから、果たしてどんな話だろうかと

思っていたが、読んだことがなかった。

このたび、コロナ禍で自宅の積読本の中の鴎外の文庫本を取り出した。

小説自体は、ものすごい短い。

起承転結としても、ぽかーん。

え?これで終わり?

 

中国・唐の時代に、閭丘胤(りょきゅういん)という官吏が、台州の主簿

という役人に任命された。台州へ旅立とうした直前にひどい頭痛に襲われ、

困っていた時に、ふらりと訪れた乞食坊主に頭痛を治してもらう。

この坊主に素性を尋ねると、天台国清寺の豊干(ぶかん)と名乗った。

あなたのような立派な方がもっといるのではないか、会ってみたいと

思ったのだった。

台州に到着し、早速国清寺の拾得と寒山という者に

会いに出かけるが・・・・・・

 

本当に偉い人というのは、どんな人を言うのか、考えさせられる話である。

 

その後、鴎外の短編小説を読み進めていくうちに、

結構読めて、面白かった。

 

10代、20代、30代では、あらすじを教えてもらっても

文章がついていけない。

アラフィフくらいでやっと鴎外の頭にたどりついたという感じである。

高校生に「寒山拾得」の面白さは理解できたのだろうか。

私も面白いわけではないが味わい深かった。

 

参考:『阿部一族舞姫』 森鴎外著 新潮文庫 2006

   「寒山拾得」 大正5年「新小説」に発表